前回のコラムでは、日本学生支援機構の貸与型奨学金について取り上げましたが、給付型奨学金の拡大等を含む、2024年度からの改正内容が文部科学省から公表されました。改正の内容は次の3点です。
1.授業料減免等の中間層への拡大(大学・短大・高専・専門学校)
2020年度から、高等教育支援制度として、授業料等の減免制度と給付型奨学金制度がセットで創設されましたが、今回の改正で、世帯年収600万円程度(モデルケース)までの中間所得層を対象とする新規支援区分が設けられ、多子世帯(扶養する子3人以上)と、授業料が比較的高い私立理工農系の進学者を支援対象に加えることになりました。
現行では、モデルケースである両親(父:給与所得者 母:専業主婦)と子ども2人(本人と中学生)では、世帯年収がおおよそ270万円以下の場合、授業料の減免は上限約70万円(私立大)、給付型奨学金の上限は約91万円(自宅外生、私立大)となっています。年収が約300万円以下の場合は、それぞれ上限の3分の2、年収が380万円以下の場合はそれぞれ上限の3分の1が減免・支給されています。改正で新対象になる世帯では授業料の減免と給付型奨学金の上限の4分の1の支援を受けられることになります。私立大学生で自宅外生では授業料減免と給付型奨学金を合わせて、年間40万円程度の支援を受けられます。また、私立理工農系への支援は、文系の授業料との差額分を支給するというものです。(多子世帯と重複の場合は多子世帯の支援のみ)
2.大学院(修士段階)の授業料後払い制度の創設
修士課程の授業料について、卒業後の所得に応じた「後払い」の仕組みが創設され、卒業後の年収が300万円程度に達した段階で、毎年の所得に応じた額(課税所得の9%)を納付することができるようになります。また、子どもがいれば、返済開始の年収目安も高くなり、子2人の場合の納付開始は、年収400万円程度とされています。
3.貸与型奨学金における減額返還制度
定額返還における月々の返還額を減らす制度について、現行の要件である「本人年収325万円以下」を「400万円以下」に柔軟化するほか、返還割合の選択肢も1/2又は1/3から、2/3、1/2、1/3、1/4の4種類に増えることになりました。
子の教育資金を考える場合、子ども3人以上を大学まで進学させるのであれば、親の経済的負担はかなりのものです。今回の改正は支援対象になる多子世帯にとって、朗報といえるでしょう。また、文部科学省の学校基本調査によれば、大学卒業後そのまま大学院に進学した率は令和4年度で12.4%となっています。経済的理由で大学院進学を断念するケースを考えると、「後払い制度」の導入は大学院への進学を後押しすることになるかもしれません。子育て支援の取組みとして、給付型奨学金の拡充は望ましいことですが、あくまでも奨学金は本人の学ぶ意欲を応援するものです。給付型を受給できても、学業成績が著しく不振、停学等の処分を受けた場合は、交付済奨学金を返還しなければならないこともあるようなので、進学する意志や意味をしっかり考えることも忘れないようにしましょう。
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